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「公共」の教科書から「基本的人権の保障」や「平和主義」は消えるのか

新科目「公共」の教科書から「基本的人権の保障」や「平和主義」は消えるのか

ツイッターしてたら3000件近くのリツイートを集めているこんなつぶやきがあった。

 

 

主に2022年から実施される学習指導要領の新設科目「公共」についての言及であるようで、自分も関心をもっているので、自分に調べられる範囲の簡単な検証をしてみました。

 

 

どれくらいこの私の指摘が有益かつ正しいものかわからないのだけど、上記のつぶやきに学生さんがいいねをしてくれたからやめづらくなってしまった。

ツイッターでつぶやいたときに書いた下書きのメモに、若干の補足をして載せます。

 

前提:確認するポイントを絞ります。

2022年度から実施される高等学校の新学習指導要領に基づき高校の教科書から「基本的人権の保障」と「平和主義」が消える、という主張について考えます。(中学校まで見る余裕がないので高校に絞ります)。特に、根拠として提示されている下記リンクからそれが読み取れるのかを確認します。

www.nhk.or.jp

 (元ツイートの投稿者の方の意図には、自民党による改憲案と新学習指導要領との関係性を指摘することがあるように思いますが、それはここでは問題にしません。)

 

①新設科目「公共」の学習指導要領において、「基本的人権の保障」と「平和主義」は削除されているのか。

→(現行の「現代社会」と比べてみると)削除されているように見える。ただし、「基本的人権の保障」については、「内容上の取り扱い」という項目で、「その際,主題に関わる基本的人権の保障に関連付けて取り扱」うように指示がある。また、そもそも現行のものと比べてみたときに、平和主義だって一回しか出てきていない、というのはある。

さらに、同時に文科省が示した「解説」の「公共」の項目のなかでは、「基本的人権の尊重」ならびに「保障」に触れた表現が7回(選択科目である「政治経済」にまで範囲を広げると30回以上になる)、「平和主義を掲げる日本国憲法の下」のような表現が3回出てくる。

www.mext.go.jp

 
【追記. 2019. 1.17】

もとツイートの方のお話をもう少し詳しく見てみると、「基本的人権の保障」(憲法11条に由来する?)と「基本的人権の尊重」(憲法13条に由来する?)を区別されたうえで、後者は残ったとしても前者が削除されるということを指摘されている。ここは私はあまり区別せずに考えていたので、よくなかったかもしれない。

ただし、現行の現代社会の教科書を複数見ても、日本国憲法の三大原理として説明されているのは、「基本的人権の尊重」という文言で、これが11条~13条までをカバーするような用語として説明されることもあるよう。いずれにせよ、もう少し考えてみないといけないところではある。


②学習指導要領から文言が削除されたことにより、教科書からも消えるのか。

→理論的にはそう主張することもできるかもしれないけれど、現実的には消えないんじゃないかなあ。理由。当該文言はなくとも、個人の尊重、法の支配や民主主義についての知識を身に付けるべきこと、またこれを「日本国憲法との関わりに留意して指導すること」とある。そうすると、現行の現代社会の教科書のように、日本国憲法の基本原理として、基本的人権の尊重や保障や平和主義について触れるほうが教科書をつくりやすいと思う。2022年から順次教科書から「基本的人権の尊重」や「平和主義」が消えていく、というのは考えづらい。

学習指導要領に書いていない文言を全く教科書に記載してはいけない、取り扱ってはいけない、ということではないからです。


さらにいうと、また、選択科目として残る「政治経済」の授業でも補完がある程度可能かもしれない。(2単位科目の「公共」のみで高校公民科終わり、という学校はあまり多くない?)

 

まとめると

1. 確かに削除されているようにも見えるけれど、もともとそんなに頻出していた用語ではないし、教科書の憲法についての内容は指導要領の他の文言や「解説」によって現行のものと大差のないものが出来上がってくるのでは。ただし、取り扱われ方は変わるかもしれない。

 

2. それでも、学習指導要領の書き手は、わざわざ当該の文言をある箇所においては削除したわけで、そこにはどういう意図があったんだろう?書き手は複数いて、相談しながら書きますよね?そのときに、他の箇所で意味は伝わると思うけど、文言としても「基本的人権」残しといたほうがよくない?という話にはならないものなのかな。

個別具体的な単語を入れることよりも、概念や理念を示すほうがよいと考えたのかな。勉強不足でよくわかんないです。

 

3. 「公共」を論じるのであれば、「基本的人権の保障」や「平和主義」の削除を取り上げるのは、あまり正攻法ではないように思えて、もっと批判的に検討すべきことはあるのでは。今回の改訂のポジティブな面も、ネガティブな面ももっと別にあるのでは。

それはたとえば端的に道徳教育とか。こちらについてはもっと勉強します。

 

 

補足1:「愛国心」の方はというと

高校の「公共」に限って言うと、確かに次のような文章が学習指導要領にはあります。

よりよい社会の実現を視野に,現代の諸課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される人間としての在り方生き方についての自覚や,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,各国が相互に主権を尊重し,各国民が協力し合うことの大切さについての自覚などを深める。*1

この箇所について「解説」はこう言っています。

国際社会において大きな役割を担うようになった日本の在り方を,公共的な空間に生き国民主権を担う公民として多面的・多角的に考察,構想し,表現できるようにすることを通して,家族,郷土,自国を愛するとともに,国際社会の中で信頼と尊敬を得る人間を育成していくことが極めて大切であることを示している。その意味で,ここでは,グローバル化が一層進展する中で国民的自覚や自国を愛することを国際的な視野に立って深めていくことを示しているのである。*2

www.mext.go.jp

確かにこれは愛国心についての教育、と読める。

どんな教科書になるんだろうなあ。

じゃあ、これをどう考え、批判していくのかは今の自分には身に余るので、宿題にさせてください。

補足2:高専は?

高専は、高等教育機関なので、直接には学習指導要領の影響下にはありません。ただし、独自に全国の高専での教育の質を保証するために、「モデルコアカリキュラム」を作成し、指針としています。そこでは特に社会科を含む一般科目は新しい学習指導要領の動向を踏まえたものとなっているので、間接的な影響はあります。

http://www.kosen-k.go.jp/documents/mcc_20171128.pdf

私は今「現代社会」という授業をもっていて高等学校の教科書を使用していますが、2022年以降は高校で「現代社会」という科目がなくなるわけで、そうすると「公共」の教科書を使うことになるかもしれません*3

そういう間接的な影響を受けます。

 

おわりに:公共についてはこれで勉強しましょう。
新科目「公共」 「公共の扉」をひらく授業事例集

新科目「公共」 「公共の扉」をひらく授業事例集

 

 公共と道徳教育についても、日本道徳教育学会会長の押谷由夫先生が書いている。勉強せねば。

*1:文部科学省、平成30年改訂「高等学校学習指導要領」第3節公民 第1款目標 92頁.太字による強調は引用者による

*2:文部科学省、平成30年改訂「高等学校学習指導要領解説 公民編」34頁.太字による強調は引用者による

*3:別に検定教科書を使う必要もないのだけれど。